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平和への構想

ガルトゥング博士のインタビュー

先日(11月)の毎日新聞の記事に、敬愛するノルウェー出身の平和学者、ヨハン ガルトゥング博士(Johan Galtung)へのインタビューが掲載された

(http://mainichi.jp/select/wadai/heiwa/talk/news/20071126ddf012070019000c.html)。

博士は自分がもっとも影響を受けた現代思想家の一人であり、私の友人と交流もある。
博士は構造的暴力という画期的な理論で知られ、平和学の父、創始者とも呼ばれる。また、政治的影響を受けない、真のノーベル賞ともいえるAlternative Nobelpreis, - Right Livelihood Award -(RLA)の受賞者として知られている。

”1945年、第2次世界大戦が終わって以来、アメリカは世界で67回の軍事介入を行いました。また35人の各国の指導者暗殺を企て、あるいは暗殺しました。それから分かっているところでは、アメリカは1945年以降25カ国に空爆をし、11カ国で拷問を行い、国内選挙に介入したのが23カ国です。選挙を操作するわけですが、その23カ国のうちの1つが日本でした。ですから、この原理主義、イスラム圏の原理主義のワハブ派に対してどんなに厳しい批判をしても、とてもアメリカのやってきたことの比ではありません。”

博士は、その他、先住インディアン殺戮の歴史など、当のアメリカ国内でも平気で繰り返し講演するような勇気のある人であるが、学生たちは、顔を背けてほとんど聞かないそうである。

毎日新聞のインタビューの内容は、このような世界的大学者に対するものとしてはあまりに稚拙で、影響の大きい大新聞での紙上ということとあいまって、どのようなレベルで回答すべきか博士も迷われたことであろう。
だが、もとより知日家で(奥様は日本人で、日本の各大学で積極的に講演、教鞭の場を持つ)、視野の狭い近視眼的な日本の知的状況を知悉しておられる上、また、紛争研究の現場でのあらゆる階層の人々との対話の経験から、状況に合わせた上で、もっとも価値的な回答を引き出すことにはさほど苦労はいらないのかもしれない。

その中で博士は、もっとも根本的な問題についてこう端的に語っている。
 ガルトゥング ”その国特有の文化、ものの考え方ですね。ディープ・カルチャーつまり「深層文化」は紛争の形態や解決に大きな影響を及ぼします。たとえばアメリカ民族の深層文化は、世界は善と悪から成っているという二分法の考えです。自分は善だからアメリカに従わないのは悪だと決めつける。一方、日本民族は善と悪という発想法ではなく、上下関係でものを考える。このためアメリカによる占領下で、日本は人類史上もっとも従順な国でした”
私が戦争と平和の問題を考える上でもっとも注目するのがこの文化の問題である。そして、文化の根底には宗教、あるいは宗教的世界観がる。
単純な例では、アメリカ合衆国は原理主義者によって建国された国であり、この国の政治、文化を理解する上で、その点を無視するのは全くのナンセンスである。
また、日本や北アジアでは仏教、儒教的な背景から、文化的な寛容さが、明確な悪に対しても寛容な文化を作り出し、正義の観念のない、ある意味、節操なき態度を生み出している。いずれも暴力に対する抵抗力と言う観点からすれば、暴力促進、あるいは暴力容認につながっており、無力な文化であるといわざるを得ない。
戦争と暴力、平和の問題は人間存在の根幹に関わることであり、この視点で考察するようになってから、私の人間とその歴史に関する疑問の多くに回答の糸口を見いだせるようになった。それほど根本の重要な問題である。

また博士は、憲法9条について、”平和憲法といわれていますが、私に言わせれば憲法9条は消極的平和を謳(うた)っているにしかすぎない” と回答している。
これも、平和とは何かという博士の平和理論の根本に関わるテーマである。
日本にはたして武装防衛という唯一の現実的手段をとることが可能だったか、あるいは今後そうなる可能性はあるのかといった政治分析は別にして、今後、消極的平和といわれる点については多くを語っていくつもりである。

--最後にアジアの安定のための方策は。
 ”ガルトゥング 現実にとらわれずにニューリアリティを築き上げていくことです。かつて戦争をしあった国がまとまったEU(欧州連合)という、お手本があるではないですか。ここは東アジア共同体をつくって、共通の通貨を導入することです。日本と韓国と北朝鮮それに台湾を含めた中国との共同体は、EUに比べて人口的にはもっともっと大きくなる。日本にとって大事なことは、これらの国に協力関係を強く働きかけていくことです。つい先日、韓国の済州島に行ってきたのですが、東アジア共同体の本部として素晴らしい立地条件だと思いましたね”

今後、年内(2008年)にも起こるかもしれないドルのさらなる崩壊と覇権通貨からの脱落によって、世界的な通貨統合の流れはより加速されていくだろう。将来はドル自身も米大陸(あるいは北米)共通通貨に統合されていくかもしれない。
だが、人々の知識が”常識”となるのは、大抵、その事象が現実となって、さらに古びた過去のものとなる頃に起こるものである。ちょうど人々が、アメリカの凋落が始まった時、その繁栄を信じ、覇権を受け入れたように。
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by schale21 | 2008-01-05 07:49 | 平和への構想 | Comments(2)
Commented by 児玉克哉 at 2008-01-26 00:32 x
日本国憲法で最も重要なのは前文です。9条は、その一つの具現化にすぎません。前文を実現すること、前文を様々な分野で具現化すること、そこに新たな道があります。
Commented by schale21 at 2008-01-26 05:15
積極的平和の実現ということでしょうか。
いかにその概念を普遍的なものとしていくことが出来るか、”様々な分野で具現化”というお言葉の中に、具体性と責任感の発露を感じる思いがします。


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