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変動の時代 2

英米文明の衰退
'Apres l'Empire'

21世紀に入り触れた書籍の中で、もっとも刺激を受けたものの一つが、フランスの社会学者、政治学者として知られるエマニュエル トッド氏の有名な著作である。
アメリカの来るべき没落を予言したこの書物は、11Septemberのテロ事件、そしてその後のいわゆるテロ戦争を通して国際的にもすっかり有名なものとなった。
これが書かれたのはテロより前であっただけに、反響は一層大きなものとなった。

その中で最もユニーク且つ深い洞察は、帝国の崩壊の前兆を示す最重要な統計項目として、識字率や出生率と並び、幼児死亡率を挙げていることである。
著者によれば、これらの統計が示す数字は、経済学者達が政治的影響を受けて流す経済統計、政治予測よりも遥かに重要であり、一国の真実の姿を如実に、そして残酷に映し出すものだとしている。
これらの統計はまた、氏が70年代半ばにソ連崩壊を予言した際にも基礎となったものである。
冷戦真っただ中、世界を二分する超大国の一角と思われていたソ連の崩壊を予言するものなど当時は誰もいなかった。
それだけに、アメリカの覇権の喪失を予告したその言説は、非常な重みをもって受け止められた。
だが、この米国の覇権の喪失の本質とはいったいなんなのだろうか。
自分はそれは、大枠での英米文明の衰退の一環であると捉えている。

人間の歴史は概ね殺戮と簒奪の歴史である。
だが、その中でもより好戦的、破壊的な文明、国家もあれば、より調和的、平和的な文明もあった。
後者の例が古代エジプトとすれば、その対極が古代ヒッタイト、あるいは近代西洋文明である。
そして、ビザンチンや中国、インドの文明はその中間的な性格と言えるかもしれない。

ユーラシアの西端、ヨーロッパ半島の歴史は複雑である。
今日の西洋文明は地中海文明の継承者であることを自認しているが、実体は地中海全域から中東、インド北西部まで、密接な関係を持って連なる古代ユーラシア、地中海文明とは多くの点で異質なものである。
その断絶を最も決定づけるものはキリスト教であり、もう一つはその性格、種族がより北方的なものであることである。
日沈む国、西洋の文明は中世に産まれ、古代や東洋の遺産を吸収しながら、急速に発達した世界でもっとも若い文明であるといえる。

この西洋のさらに西端にある島、ブリテン島は、大陸に拠点を築くことは叶わなかったが、大陸諸国との海外での競争に打ち勝ち、海洋国家として早くから世界貿易を支配した。
同じく西欧の辺境にあり、その略奪行為で旧大陸のみならず、グリーンランドから新大陸まで席巻した北欧民族が、その後急速に歴史の舞台から消えたのとは対照的に、英国の繁栄は数百年間続いた。
その繁栄の根幹は奴隷貿易と海賊行為にあった。自ら富を生産しない者が繁栄し生き延びるには、他の者が持つ富を奪う以外にない。
この苛烈な人身売買は、残酷極まりない人類史の中でも、近代の最大の汚点の一つといってよいだろう。
中南米においてはこのため、現地の住民はヨーロッパからの細菌の移入とあいまってほぼ絶滅した。

19世紀の初頭、清国は今だ世界の富の半分以上を生産する経済超大国であった。
近代以降、これと比肩しうるのは第二次大戦直後から、60年代までのアメリカ合衆国だけである。
海洋国家として、世界に植民地を築いた英国は、この清国に貿易として提供しうる生産材は何も持たなかった。
輸入超過と銀の流出に悩んだ英国は、アヘンを東洋の植民地で生産し、清国との貿易にあてることとした。
これに反発した清国との間に起こったのがアヘン戦争である。
同じく、優れた文明大国であったインドでも、半島内の抗争に乗じて全域を支配に収めることに成功した。統治上の最大の関心事は、国を二分するイスラム教徒とヒンズー教徒を反目させることであった。団結したインドには、島国英国は勝ち目はないからである。
これと同じ巧妙な手段で、中東、アジア全域に渡り影響力を行使し続けた。
その影響は中東に、アジアに、アフリカに今も深い傷跡を残しながら続いている。

20世紀の二度の大戦はその英国を疲弊させ、その覇権は米国によって継承された。また英国は陰に陽に米国内に影響力を維持する事で、米国の陰に隠れながら覇権の一部を維持してきた。
そして、このかつての植民地にして最大のライバルでもある米国は、様々な面で英国の手法の継承者でもあった。その最たるものは内部の分裂を煽る事による分轄統治の手法である。
反目しあうユダヤとイスラム、イスラムとクリスチャン、シーア派とスンニ派、左派と右派の対立、そして冷戦、これらはみな近代になって人工的に造られた伝説であり、手の込んだプロパガンダの成果にすぎない。
数百年続いた英国、そして米国の覇権によって世界は様々な形で分断された。
意図的に作り出された分断と反目は、あたかも数百年、数千年も前からの事実であるかのように喧伝され、今日の”常識”となった。

プロパガンダで大衆を操作するには、大衆の教育を制限せねばならない。彼らは決して自分の頭で考える利口者であってはならない。また大衆は手段であり、決して目的であってはならない。
このような哲学は、ソ連崩壊の後、あたかも時代がフランス革命以前の状態に遡りして、新たな階級社会の出現を想起させるようだ。
実際、フランスでの市民革命から、ソ連崩壊までの200年に渡る一つの時代が幕を閉じ、新たな激動の時代に突入したといえるだろう。

米国の製造業は衰退し、国家も個人もクレジットの山となったが、崩壊前のソ連と同じく、盛んなのは軍需産業である。それ故、彼らは紛争と危機を必要としている。紛争と危機は常に新たに編み出されなければならない。冷戦後のあたらな長期戦争は対テロ戦争と名付けられ、それは今世紀一杯続くともいわれている。
だがその背後には、迫り来る気候変動に備えた、食料と水、エネルギー確保に向けた長期戦略も垣間見える。
その過程でアメリカという国家は劇的に衰退するだろう。だが今日、そこでは”国家”を本気で問題とするものはいない。革命前のヨーロッパと同じく、”階層”の繁栄こそ問題となっている。国家はその隠れ蓑にすぎない。

かつて暴略を極めた北欧は、世界でもっとも平和的で福祉的な社会を実現した。
人類史上、例のない殺戮の歴史を刻んだ欧州は、その社会民主主義的発想と高い教育環境で、二度と地域内紛争と暴力のない社会を実現しつつある。
エマニュエル トッド氏の予言通り、新たな欧州が、紛争と分断、略奪を基とする英米的価値観に取って替わる勢力となるとき、もう一度歴史は大きく動く事になるだろう。

by schale
schalephoto@yahoo.co.jp


17世紀に書かれた聖書  友人の所有
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by schale21 | 2007-10-22 09:30 | 平和への構想 | Comments(8)

変動の時代1

”人間の歴史は幸福の歴史ではなく、限りない悲しみと涙の歴史である”
 ヤーコブ ブルクハルト

 歴史の誤謬

人間の常識には多くの誤謬がある。その誤謬はしばしば破壊的である。
そして、その多くは自らの歴史に関するものである。

誤謬の第一は、人類の先史時代、さらにさかのぼって類人猿の時代の自らの姿を、獰猛な動物に素手と粗悪な武器で立ち向かう勇敢な狩人として書いた事。
実際には、戦う力の弱い彼らは、大型肉食獣の格好の獲物に過ぎなかった。
この悲しく、受け入れ難い事実は、今日にいたるまで、人間の歴史と心理に大きな陰を落としてきた。
もう一つの破滅的な誤謬は、人類史を犯罪の歴史ではなく、概ね美しいもの、あるいは向上の歴史、意義に満ちた歴史として描いてきたことである。
いずれの誤謬も、自らを美化したいという心理に基づいている点で共通である。 

凶悪犯罪者が自らの罪の重さを自覚する事は容易ではない。
絶対的な力を持つ他者からの強制がないならば、なおさらのことである。
そして、自らの罪を自覚する能力が絶対的にないものは、もはや犯罪者ではなく、精神異常者である。
精神異常者を罰する事は意味を持たない。ただその暴力が猛威を振るう事がないよう収監するほかはない。でなければ屠殺の道である。

ーーーーー

もしこの宇宙に他の優れた文明があって、彼らがこの惑星を眺めたらなんと思うだろうか。
人間はこういった考察の基に、多くの映画を作り小説を書いて来たが、その内容の多くは、アクレシブな宇宙人が我々を侵略し、それに勇敢な地球人が応戦するというものだ。
だが、果たして本当にそうであろうか。
第一、そのような攻撃的な文明は、他の惑星系に移動出来るほど高度に発達する前に、自らの内紛で滅びてしまうだろう。
攻撃と征服を義とする文明に、未来はありえない。
その攻撃的な宇宙人の姿は、我々自身の姿を映したものにすぎない。

地球を眺める宇宙人はきっとこう思う事だろう。
”おお、人類とはなんというアクレシブで残酷な種族だ! 過去にネアンダータールのような競合する種族を絶滅に追いやり(仮説)、今また、地球の環境と生物そのものを簒奪し、完全に滅ぼそうとしている。そして自らもその残虐な殺し合いの果てに、滅亡しようとしている。
彼らがもし自ら滅亡することなく、充分な技術を持ち得たら、きっと我々を攻撃し、富を奪い、容赦なく殺戮するに違いない。
今のうちに手を打って、この種族を滅ぼすか(死刑)、危険な武器を持たぬよう管理する(収監)ほかはない”

宇宙から見た人類は、精神に異常をきたした、残虐な猟奇殺人者、連続殺人者にすぎないことだろう。

我々を管理する、圧倒的な力を持った異星人を持たぬ以上、この犯罪の歴史に終止符を打ち、未来まで生き延びる条件の第一は、自らの犯罪の系譜を自覚する事以外にない。
歴史はその根底から書き換えられなければならないのだ。


お詫びとお知らせ
個人的な諸事情もあり、更新も不定期な上、内容も訪問してくださる多くの写真関係の方々にとって、つまらないものも多いかと思います。
いつも訪問してくださる方へ感謝申し上げるとともに、今後も不定期な更新となることをお詫び申し上げます。
(次回は写真家ラリー ウイリアムス氏、詩人、独文学者、芳賀檀氏について取り上げる予定です)
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by schale21 | 2007-10-22 09:23 | 平和への構想 | Comments(2)