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再び、’風立ちぬ’

”人間は、死すべき存在である”
          マーティン ハイデッガー

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その時、風は立った。二人の心を揺り動かすように。
この世界に溢れる現象、すなわち、生命そのものに充ちた宇宙の中で、私たちの命もまた、この風のように儚く、刹那の一瞬の法起に過ぎないだろう。

では、生は無意味なのだろうか。
いや、そうではない。
私は今、この消え往かんとする一つの生命を愛している。
私はこの愛によって、生そのものに、この一瞬の人生と、宇宙そのものに対して、意義という最高の贈与を成し遂げたのだ。
生の意義とは、探すものでもなく、見つけ出すものでもない。
それは、自らが産み出し、この宇宙に対して贈与するものなのだ。

私たちの消えゆく生も、一瞬にして立ちゆく風も、無限に繰り返される営みの一つでしかないだろう。
だからこそ、’今、ここにある’ この事実ほど尊いものはなく、それこそが全てであり、この一瞬にこそ人生の全てが凝縮されているのだ。
ああ、この ’今’ を生き抜こう、明日でも昨日でもなく、この ’今’ をこそ意義で満たしていこうではないか。




第一次世界大戦の最中、言語に絶する悲惨な塹壕戦に赴く青年兵士達の懐中には、ヘルダーリンの詩集があったという。
これまで経験したことのない、人類史的な危機の中で、この長らく歴史に埋れていた無名の、”近代最高’の詩人”が発見されたのだ。
そしてまた、太平洋戦争末期、特攻に向かい、死に臨んだ青年航空兵たちが愛読したのが、堀辰雄の小説、”風立ちぬ”であったという。

人間は死を免れ得ない。しかし、我々の日常は、この死を厭い、忘れる事で成り立っている。
しかし、この死に対してどう向かい合うかという問いの中に、生を意義あるものにし、本来的な生命の躍動に満ちた生を送る答えがあるのではないだろうか。
この事を近代において哲学的な側面から最も深く追求したのがハイデッガーであった
そして二十世紀の、世界で最も優れた文学、芸術もまた、この問いについての回答を求める激闘の成果であった。
堀辰雄の文学は、日本において、最も真摯にこの実存的な問いかけを明示し、その美しい自然描写と人間心理の洞察が絡み合う室内音楽のように、哀しく美しく、そして時に力強く私たちの眼を見開かしてくれている。

写真、文
Schale



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by schale21 | 2013-08-14 09:48 | Comments(6)