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詩人の夢と賛歌     詩人 中嶋康博氏に寄せて

“あなたのナイーブな心はその始原に迄遡って、そこから又、混濁の現実に戻ってこようとしておられる。それは美しい仕事です。私はその証人に撰ばれたことを誇りに思っています”

                       芳賀檀   中嶋康博氏への私信から


讃歌


小高い山頂の青空をえらんで

大きな鳥が孤独な輪をとぢて歌ふやうに

最愛の風よ

ほろび去る全てのものに

ふいて知らせる金色の予感よ

翼ある精神の かろやかな決意を

双手をひろげ 私も小さな鳩胸の心にはらんだのだが



それはほの暗い顥気(こうき)の高みへと私を誘(いざな)ふ

火の山のはかない蒸気雲であつたのか

ゆくてに仰ぐ 露岩のかげから湧き昇つては

鳳凰の貌(かたち)をして 刻々と翼をひろげた

伝説のやうに 鷹揚にはばたきながら

それはすみれ色の天上へ あざやかに消えた



新緑の大気にやすらふ 六月の神々よ

答へてほしい 人生の最愛の風にふかれて

私は今 登りつめた山頂に立つてゐる

たち眩らむ予感に ひとり呼吸をととのへながら

石の祠に手をかけて 私の歓喜は 頭上をめぐる

鳳凰(お ほとり)の軌跡をなぞるばかりだ



        中嶋康博詩集より





まるで、高原の空気を胸いっぱいに吸いこむように、心全体が、鮮烈で透明な息吹に満ち溢れる。
どれほど永い間、このような感触を味わうことができなかっただろうか。
健康にして、一切の不純から決別し、巷間の汚辱の彼方に遊業する。

あなたの闘争は、深海に挑戦し、誰人も見ることができない大海の至宝を、平凡で怠惰な私たちに、やすやすと提示してくれている。
それに触れるものが、その激烈なまでの深さ故に、決して傷つくことがないよう、やさしく美しい宝玉の言葉で包み込んで。

あなたは、全ての優れた芸術家がそうであるように、孤独に耐え、誰人に知られることなく、精神の闘争をたった一人で続けてこられた。
この“精神の酷烈な厳冬の季節”の中でなお、結実した果実の奇跡を伝えるために。

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詩人中嶋康博氏は、四季派の流れを継承する詩人として、長年に渡り優れた詩作品を発表されてこられました。また、詩作の傍ら、和漢の古典について精力的な研究を続けてこられています。かつては著名な詩人、田中克己氏に師事され、また、私の恩人でもある芳賀檀博士からも、多大な賛辞と期待を寄せられてきた方でもあります。

私は氏の作品に触れると、ちょうど森林限界から氷河のかかる雪線に横たわる岩塊に立つような鮮烈さ、そして北緯63度の極北圏の空気の清浄さと厳しさを思い起こします。しかし、それにもかかわらず、同時にやさしい春の草原のような心地よい風にも満たされていることに、驚嘆せずにはいられないのです。


詩人リルケの顔は、激烈な寒風にさらされ、削られたかのような顔であるといいます。
おなじように、氏が耐えてこられた内面の闘争とは、全て精神の果実を,私たちに無償で贈与し、次代へと継ないでいくための熾烈な闘争であるといえるでしょう。
しかし、その木の実は堅固で、千年の歳月にも耐え得るものであるのに、甘く芳香に満ちた丸い果肉で包まれているかのように、触れるものを美しい心情で満たしてくれのです。



写真、文  schale
中嶋康博氏のご厚意により、詩の全文を掲載させていただきました

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by schale21 | 2015-01-30 09:08 | Comments(0)