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現代のレビアサン

”悪魔はしばしば人類のために、愛の本を書く。
併し、人間を汚辱したいと云う燃えるような願望をもって”
                  芳賀檀 第五の悲歌、喇叭の書より



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ネオリベラリズムの神が世界を席捲している。
この太古の昔から連綿と続く野獣の生命は、時には神に、時には神官に、時には国家の中に、その棲家を変えながら今日まで変わることなく生きながらえて来た。
だが、その本性は、古代より何も変わってはいない。

彼がその全存在をかけて注ぐ唯一の情念、それは人間を貶めること以外にはなく、その嫉妬の炎であらゆる人間の高貴さ、高潔さを汚辱して止まないことである。

彼の真実は醜悪極まりないが、しばしばその顔貌は優美であり、繊細であり、甘美の魅惑に満たされている。
しかもその力、執念、すべての存在の弱点を知り抜いたその智謀は、地上の最も優れた賢者の知性をすら凌駕する。

彼は常に語り続ける。
”全ては人々の幸福の為” であると。
その抗しがたい、胸を突く甘言。
社会と人間の心理学を極め抜いた深遠な智謀。

彼は彼に刃向かうものにさえ、驚くべき寛容の姿を見せる。
だが、彼の真実を見抜く者には、例えそれが一介の名もなき貧者、赤貧の乞食でろうとも、全力をもって破壊する。
人々に真実を知られ、知らされることが、彼の唯一の破滅であるからだ。

世界は今、自らすすんでこの獰猛な野獣の奴隷とならんとしている。この野獣を賛美し、新たな神の座を与えようとしいている。

奴隷の運命が常にそうであるように、精神の自由は耐え難い恩寵であり、自らすすんで奴属の道を選ぶばかりでなく、より低次の奴隷に対する残忍な支配者しても暴力を賛美して止まない大衆。
スペインの賢者、オルテガ・イ・ガセットが予見したこの大衆にとって、力に対する服従ほど心地よいものはない。
しかし、ついに待ち受けるものは、完全なる貧困と暴力のみであるにもかかわらず。


この、支配と被支配のみによって作られた社会、力の神を至上とする社会。
歴史は常に変転すると人はいう。
だが、その支配する法則は車輪の回転の如く、同じ運命を繰り返している。

今、フランス革命によって産まれた”国家”は解体され、”市場”がその地位を継承しようとしている。
かつてと同じように、人々はこの新しい神に跪き、賛嘆の声を上げ、競いながら讃美歌を捧げている。
しかし、彼らが賛嘆するものは、かつてと同じ悪魔であり、歩む道は地獄への道である。


schale


写真, デザイン 
"Ich will erst genommen werden! 私を最初に選んで"
ベルリンにて

Copyright: Yvonne Weber


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by schale21 | 2013-06-09 06:02 | Comments(0)


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