永世武装中立


山岳民族の独立心が強いのは世界的な傾向である。
オーストリアチロル、ドイツバイエルン、コーカサスの諸民族、チベット、クルド人、みな独立を守るため、激しい戦いを戦って来た。

スイスの英雄、ヴィリアム テルは伝説上の人物であるが、多くのスイス人にとっては実在の人物である。(実在を信じる人は約半分?)
いずれにしろ、シラーの戯曲によって世界的に知られることとなったこの人物の人格が、スイス人にとってもっとも重要な”実在”である事に変わりはない。

様々な面で、世界でも特異な国であるスイスの特徴的なことの一つは、この200年間、戦争に巻き込まれなかったことである。ナポレオン戦争を最後に、戦渦を直接には被っていない。
このことは、その盤石さを象徴するかのような山岳景観と相まって、スイス人の心理に決定的な影響を与えている。
彼らに取って世界は変化しない不動のものなのだ。
焦土なった日本やドイツでは、いかなる物事も激変し、失われることを知っている。

スイスの武装中立概念は、多くの国で受け入れられ採用されているが、その為には、自前ですべてをまかなうための豊かな経済力、国民の自主独立の精神、侵略戦争に対する絶対的な拒否などが条件となる。
この国のプロテスタンティズム的な功利主義、現実主義は、その政策の実現と維持に決定的な影響を与えている。これは単なる政治政策の問題ではなく、国民の生きる為の哲学の問題といえるだろう。

アルプスの、不動に見える巨大な山々の多くは自然の要塞である。そこのは多くの地下基地が作られ、核戦争にも耐えられる準備がなされている。
一つの山全体が、巨大な基地なのだ。山腹からはカタパルトで、主要戦闘機のF18が運ばれる。その全容は外部からは知る由もない。
山中の滑走路は普段は開放され、人々にサイクリングやインラインスケートの絶好の場所を提供している。
地下に格納された航空機の離着陸の際にのみ、ゲートが閉まり閉鎖される。
それが終わるとまた、自由な出入りの場となり、そばでは牛が草を食む平和な光景が繰り広げられる。
ここでは平和と、それを守る為の軍事は、いずれも共通した境のない日常のものなのだ。
また、今日の世界状況で、高価な最新兵器やシェルターが、有事に役に立つ事を信じている人はいない。
だが、それを撤廃することを考えている人もまたいない。それは必要なくとも必要な、保険に似ているのかもしれない。

国民には銃が配られ、自宅に管理される。有事に備えたものだが、それによる事故、犯罪は皆無である。いかに国民の自己管理の意識が発達しているかの証左といえるだろう。

世界有数の優秀な装備と準備を誇るスイス軍。
戦争を事実上知らないその軍隊が、実戦でどの程度のものかはわからない。
しかし、テルの時代から、圧政よりは死という独立の精神は今日も変わってはいない。



写真はアルプス山中での航空訓練の披露ショー
会場は戦闘機機関砲の射撃訓練場。標高2400m。徒歩約2時間。


f0081988_892384.jpg
f0081988_810737.jpg
f0081988_8104591.jpg
f0081988_8111018.jpg
f0081988_8114831.jpg
f0081988_812421.jpg
f0081988_8133336.jpg
f0081988_814019.jpg
f0081988_8143224.jpg
f0081988_815411.jpg
f0081988_8154377.jpg
f0081988_8162427.jpg
f0081988_817986.jpg
f0081988_817336.jpg
f0081988_818559.jpg
f0081988_8192661.jpg
f0081988_8195795.jpg
f0081988_8202465.jpg
f0081988_8205088.jpg
f0081988_8251694.jpg

[PR]
by schale21 | 2006-10-13 08:25 | 平和への構想 | Comments(10)
Commented by Capucci-mm at 2006-10-13 08:37
おひさしぶりです~(^^)/
すっごい訓練!(^^;)
>一つの山全体が、巨大な基地
そ、それは知らなかった(^^;)汗汗
スイスの思想、善し悪しの判別は私の範疇を超えますが、
少なくとも「武装を無くしたら平和が来る」とマジに考えてる
この日本の一部の人々とは雲泥の差がありますね。
日本の脳天気さには呆れるときがあります(-_-;)
Commented by palms-7 at 2006-10-13 22:33
スイスの中立には傭兵制の歴史が大きく関わってますよね。
生活を支える為といっても、スイス人同士が敵味方に分かれて最前線でぶつかり合う・・
永世中立とは奇麗事ではなく陸続きのヨーロッパで国を守り悲劇を繰り返さない為の選択だったのでしょう・・。
自国は自分達の手で守る・・有事の際には自ら武器を持って戦う・・
過去から学んだ平和への意識、平和を得る為に何が必要かと言う事が常に身近に存在してるのかなと思います。
愚かなるは、過去から何も学ばずただ同じ過ちを繰り返す事
上辺だけの偽りの平和に未来は無いように感じます。
コメント書きながら、脳裏に瀕死のライオン像が浮かびました・・。
Commented by bono at 2006-10-14 01:22 x
これは何ともすごい景色ですね。
アルプスの山中を高速で舞う戦闘機。そのエンジンの熱気が景色を歪めている様子に、ちょっとどころではなく驚きました。
空軍の公開訓練なのでしょうが、場所が場所(崖)だけに怖そう...。
ギャラリーは、戦闘機を見下ろす事もできて楽しいでしょうね。

永世中立という一見、平和な印象を受ける言葉ですが、
シャーレさんがタイトルにしたとおり、`武装’という一言が入るのですよね。
信念を貫くための覚悟が、国を成す国民の1人1人に浸透しているという事なのでしょう。
国が平和であるための、スイスという国の選択。
この自立した安全保障方針は、立地条件があるとはいえ一つの理想ですね。
知ることの無かったお話と、その写真、ありがとうございました。

ギャラリーの様子ですが、自転車のステージレース山岳コースみたい!と思ってしまいました。
Commented by schale21 at 2006-10-15 06:07
カプチさん、武装をなくすのは平和の結果ですね。問題は武器ではなく、それを使う人間の側にあるというのが主張の骨子です。銃が自宅にあっても犯罪に使われないというのが良い例ですね。

Commented by schale21 at 2006-10-15 06:19
palmsさん、いつもながらスイスの歴史にお詳しいのにびっくりです。
おっしゃるとおり今日のヨーロッパの平和は、悲惨な戦争を乗り越え、そこから学んだものです。ですから同じ軍隊、徴兵といっても、とても米国の感覚は理解できないのです。核時代を経ても、いまだ戦争の捉え方が前近代的であることに恐怖を覚えます。
ちなみにこの戦闘機が、国内で実戦に使われる可能性も、実戦で有効である可能性もほぼゼロです。

Commented by schale21 at 2006-10-15 06:24
bonoさん、現在考えられる限り理想に近いものではあると思います。
しかしいずれにしろ問題は制度、装備ではなく、国民、人間の側にあります。形だけまねしても無意味だということです。
この国の制度が、国民自身によって長い間に勝ち取られたもので、現在もその意識、信念に支えられているところに意義があるのだと思います。
個人的に60年代の安保は、現実的な妥協の産物で、無意味と思いませんが、現在の有事立法はそれとは較べようもない危険なものと思います。この国には主体性もなければ、信念もなにもありません。
そこで平和を維持するのは難しいでしょう。
Commented by ありゃいん at 2006-10-15 21:41 x
なるほど、、、そういうことでしたか。
分かってみれば納得ですが、今まで全くとんちんかんな考えで居たことがお恥ずかしいです。

スイスの山々はそのまま国を守る城壁にもなっているということですね。
ですが、アルプスの山に戦闘機が隠れていようとは想像もしていませんでした。

良い勉強になりました。
Commented by schale21 at 2006-10-16 20:18
ありゃいんさん、歴史的な背景があるとはいえ、その設備、発想は徹底してますね、関心します。それでも山が美しいことに変わりはないので、騒音以外は邪魔にはなりませんが。
Commented by おじゃまします at 2006-10-18 04:26 x
すっかりごぶさたしています
見物席がすんごいところにありますね(^^;
東アジアでも、立憲君主制と社会主義、反共政策をとる国がASEANでつながるという面白い現象もあって、あれは注目しているのですが
自国防衛と世界の憲兵とでは、やはり発想の根本が違うとは思います
いずれにしても、美しい山々の景観は、後世に残したいです
Commented by schale21 at 2006-10-19 04:26
おじゃましますさん、どうもです。
もやは右や左、体制の違いという時代ではなくなったのだと思います。
よくも悪くも経済がすべてというか、一面では多極化、現実主義の時代だと思います。
また、長く続いた、英米文化の植民地主義的なありかたも終焉をむかえつつあるのだと思います。この数年が、人類の大きな岐路ですね。
いずれにしても、人間主義的な平和で住みやすい社会を願いたいものですね。


<< 子ども達と未来 異邦の旅人 >>